低い日本の補聴器普及率

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世界的にみて低い普及率

我が国の難聴を自覚する人を対象にした普及率はどれくらいだと思いますか? 20%?、40%?、60%?、そんなに高くはないです。じゃあ、10%?、2015年はそんなものでした。2022年の統計ではやっと15%に到達しました。デンマーク55%で欧米では最高。ヨーロッパの中央値44%で我が国は半分にも満たない有様です。理由は一つではありません。まず日本語は子音と母音が必ず対になっており、無声子音がないので聞き逃す確率が低く抑えられる言語だからです。福祉の基準が非常に高く日本では、高度難聴(平均聴力70dB以上)にならなければ補聴器の交付が受けられません。福祉国家では、軽度難聴から補助があると聞いております。やっと日本でも助成金が受けられる自治体が増えてきてはいますが、まだまだ十分ではありません。

その大きな理由は?

日本の補聴器満足度は54%で、ヨーロッパの最高がスイスで86%、中央80%です(JapanTrak 2025)。なんと低いと思われるかもしれませんが2015年は39%でしたからまだよくなったほうです。依然として低いということには変わりはありません。54%も満足していればいい方では、という意見もあるかもしれません。しかし現実問題として多くを望んでも仕方がないのでこの程度で満足するしかないと考えている人も含まれていると思います。でも次の項目を見れば日本の補聴器の供給体制がいかに問題だらけであるかを浮き彫りにします。
顧客推奨率(以下NPS)はご存じない方も多いかと思われます。NPSとは「あなたはこの商品・サービスを、親しい友人や家族にどの程度すすめたいと思いますか?」というシンプルな質問に対し、0点〜10点の11段階で回答してもらい、「推奨者(9〜10点)」の割合から「批判者(0〜6点)」の割合を引いてスコアを算出します。NPSはー100 ~ +100%の値を示します。中立者は7,8となっており5,6など一見中立と思われるスコアも批判者に分類されるので日本ではマイナスになる企業もよく見られます。業界の平均がマイナスになる業界も多くプラスの値になればとりあえずは優秀といわれています。では補聴器業界はどうなのかというと-44%というスコアになっており、さすがにこれはまずいのではないかと思います。これでも2022年の-65%よりは改善したので少しは改善傾向にあります。ちなみに当院の前身の原田耳鼻咽喉科の時代にNPSを実施したことがあります。自慢したくありませんので具体的な数字は明かしませんが結果はプラス二桁でした。別に特に当院が優秀なわけではなく現在の医学水準を愚直に守っているにすぎず、それさえできておればそれくらいは、獲得できると考えています。音場閾値検査を施行していない販売店も多く-65%というスコアは納得できる値かもしれずこれが普及率低迷の大きな原因になっているのではないかと考えています。販売店全体の信用度の低さが問題の本質なような気がします。「補聴器 国民生活センター」と検索していただければどれだけの苦情が国民生活センターに寄せられ、注意を促すチラシまでアップロードされているのが分かるでしょう。これがこの問題の根深さを示す根拠です。(JapanTrak 2025)

難聴に強い言語

日本語は難聴に強い言語ですから軽度難聴なら騒音環境や小声などの条件下以外ではほぼ普通に会話できます。それは、日本語をローマ字で書くとわかるように子音の後には必ず母音がついています。母音は子音より音圧が強く軽度難聴では聴き取れます。一部の子音が聞き取れなくても母音が聞き取れますので言葉の流れで文章を構築できます。それに比較して欧米の言語(ゲルマン語系、ラテン語系)は子音の後に母音がないいわゆる無声子音が良く出現します。子音の弱いエネルギーの音声を聴きとらなければならないので欧米の言語は難聴に弱く軽度難聴でも補聴器を装用する必要が出てきます。福祉の基準が日本に比べると甘く、中等度難聴でも福祉を受けることができます。日本では、高度難聴にならなければ福祉を受けることができませんでした。しかし最近では、中等難聴でも高齢者の場合補聴器の助成金を受けられる自治体が増えつつあります。私は補聴器供給の問題と日本語の性質が補聴器普及率が低い2大原因と考えています。

不適切な販売

2026年4月の出来事ですが、一度耳穴型を購入した患者さんの話です。購入したものの耳が痛くて付けられないので使用を断念されました。耳型を取らずに購入されたようなのでレディメイドの耳穴型のようでした。レディメイドは補聴器の先端にシリコンゴムの耳栓が付いています。もちろんそのサイズはいくつか用意されているのですが、耳鼻科医でもない限り外耳道の太さなんてわかるはずもなく店員は客の入れ方が悪いと思い込んで「入れ方が間違っている」とばかりに指導をするばかりでした。本人の外耳道が平均より細いのですが適切な太さの耳栓が選ばれなかったが原因でした。結局はその方は一日も補聴器を装用することなくタンスの中の補聴器として保有するだけとなりました。医師でないものが医療行為(補聴器販売は一応準医療行為ですが)を行うと問題が起きるので一応資格制度になっているのですが、この分野では医療者でないものにも既得権益(「補聴器の販売経路はなぜダブルスタンダード」参照)で認められていますのでこういった悲劇が起こることがあります。これは制度そのものに問題があるのでその店員だけを責めるつもりはありません。その患者さんは耳穴型補聴器に対してトラウマになっていましたが、カスタムメイドなら解決できると説得し試してみることになりました。こういう出来事はほんの一例でありこの他にも問題のある販売のエピソードには枚挙にいとまがなく、こういった事実の積み重ねが顧客満足度やNPSを引き下げ補聴器の普及率の低下の一因になっていると考えています。

その他の要因

難聴を自覚しだした当初から補聴器を装用しないこの日本では、いまだに老いといという事実を認めたくない意識が根強く残っているようです。いまだに目立つ物は嫌で実用性より審美性を重視する方が少なくありません。でも最近はワイヤレスイヤホンの普及により耳穴型補聴器をあえて目立つ色にした方がカムフラージュできるのでありがたい世の中になったと思います。私もITC(耳穴型の2番目に大きい)を堂々と人前にさらしています。携帯電話を触っておれば誰も補聴器とは思わないのでまったく気にしていません。実際Bluetoothでイヤホンの代わりになるので非常に便利です。電車内で動画を見ても誰にも迷惑をかけずに済むのは非常にありがたいものです。またRIC型補聴器もかなり目立たなくなったのであまり気になさらずに装用できると考えています。

普及率は増加しつつある

非常にゆっくりですが補聴器の普及率は増加しつつあります。供給側はいまだに玉石混交ですが、認定補聴器技能者や言語聴覚士の教育制度の改善、学会で補聴器相談医の育成や補聴器適合判定医の制度化などが効力を発揮しつつあり、販売店の補聴器満足度やNPSも徐々に改善傾向にあるからだと考えています。当院のように補聴器診療専門クリニックはほとんどありませんが補聴器外来の併設を真剣に考えている開業医も増えつつあります。補聴器を検討されている方の意識も高くなってきており購入先を選ぶようになってきているようで、補聴器満足度も少しずつではありますが上昇しています。難聴を放置することが認知症の発症リスクの増加をもたらすという知見が一般的に周知されてきたことも大きな要因と考えています。(「補聴器と認知症」)
文責:原田
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