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補聴器外来も医療行為です
ハラダきこえクリニック北浜で補聴器の処方を受ければ必ず聴こえるようになるのかと思っている方がおられるようです。もちろんご期待に添いたいのはやまやまで当方も手を抜いているつもりはありませんが、補聴器診療も医療である以上期待通りにはまいりません。医療行為は一般的には診察→検査→診断→治療という順番で進められます。医療行為の2本柱は診断と治療です。補聴器外来でいうと難聴を精査し補聴器適応の診断と適切な補聴器の処方することになります。
例を示します。Aさんは「人の話が聞き取りにくい」という主訴で来院されました。いくつか問診を行ったうえで検査を施行したところ感音難聴を認めましたが、最高語音明瞭度は70%以上ありました。診断は、感音難聴で補聴器適応ということで補聴器の試聴を開始します。試聴期間中定期的に聞こえに対する問題点を聞いて調整を加えていきます。聞き取り具合の改善と語音明瞭度が規定以上の値に達していたら本人の満足度を考慮しながら補聴器の処方を決定します。補聴器適合が不十分な場合はまた別の方法を模索します。以上のように一般診療と同様の手続きで補聴器診療を進めていきます。
意外と知られていない医療の弱点
さかのぼる事私が医学生のころで4年生を過ぎると臨床医学を学ぶことになるのですが、各科の様々な病気の講義を受けておりました。まずその病気の種類の多さに圧倒されました。症状は緩解するけれども完治できないのはまだいい方で、治療が確立されいないさらには原因すらわからないという疾患が非常に多いのが現実でした。この時私は医者はなんと無力な存在であろうか、医者になったところで何ができるのかと思ったほどです。今は当時と違って治療可能なものが増えたとは思いますがいまだに多くの疾患が完治できない状態にあるのだろうと思います。ただこういった難病は症例数が少ないのであまり問題になっていないのだと考えています。現代医学は、原因療法ではなく対症療法(症状の軽減)が中心の医学です。これが意外と知られていない医療の弱点で病気そのものを治せないことのほうが多いくらいです。難聴の中で最も多い感音難聴は原因療法ができませんので「聴こえにくい」という症状の改善のために補聴器を使用して対症療法をするわけです。高血圧における降圧剤、糖尿病における血糖降下剤、頭痛における鎮痛剤と医学的には同じ位置付けです。難聴の対症療法はいわゆる一般の気導補聴器がすべてではありません。ときに人工内耳や人工中耳、埋め込み型骨導補聴器(BAHA)などが選択されることがあります。つまり補聴器は難聴の対症療法を行う手段の一つであり目的ではありません。
販売店における補聴器
現在日本では無資格で補聴器を販売しても合法なので、販売店においては補聴器が前述したような医療的な位置付けになっていないのではないかと思います。医療人でない者に医療観念を求めるほうが無理があるので一日も早く厳しい制度ができるべきと考えています。「低い日本の補聴器普及率」でも述べたように日本の現状が物語っており、日本の補聴器販売店の信用度が決して高いとはいえません。日本も「世界の補聴器制度をAIに訊いてみた」に示す海外の様に厳しい国家管理態勢が整っておれば補聴器販売店が医療機関として認められ当院のような存在は必要なかったと思われます。補聴器の販売が目的であってそのためにできるだけ聞こえるようにするのが望ましいと考えているように見える範囲店は少なくありません。一方でかなりのレベルの高い販売店もあるのも事実です。
診療所における補聴器
「難聴患者の療養の向上を目的とする場合に限り、有償で交付(販売)してもよい」という厚労省の見解を根拠として当院では販売いたしております。最初の話に戻すと難聴の対症療法の手段として販売が可能であるということです。ところが混合診療に当たらないように治療のプロセスとは切り離された物品の購入として扱われるそうです。補聴器は対症療法の手段なのに薬剤と別に扱われるのは、一般の治療とは区別されているようですね。補聴器の現状を鑑みるに医師にも販売を認めようというのは政府の苦肉の策のように感じるのは私だけでしょうか。
決定的な違い
どうして医療機関と販売店はどうしてこのような違いが生じるのでしょうか。医療は営利目的で行ってはならずしかも慈善事業でもないという特殊な位置付けで「非営利な公益事業」です。慈善事業ではないので利益は必要ですが配当は出せず、給与や医療の継続・向上目的にしか使えません。販売店は営利目的なのでどうしても売り上げ至上主義にならざるを得ず、必然的に補聴器が医療の手段ではなく販売自体が目的にならざるを得ません。営利目的のため経費を最小限にするため設備や検査の簡略化が行われているケースも見られます。もちろんすべてではなく医療機関を上回る施設や検査が行われている専門店もあるのは事実です。玉石混交ですが、玉より石の方が多いだろうということはいろいろな資料が物語っていますし別のブログでもその根拠を述べているつもりです。もちろん医療機関も院長がほとんど補聴器に関与せず、業者に丸投げのところもありますのでこちらも玉石混交である事は事実です。
別に偉そうに言うつもりはありませんが
当院は補聴器外来専門医療機関である以上ほとんどの施設(特に販売店)より圧倒的に技術的優位に立たなければならないという使命感は持っております。というと当クリニックに来ると必ず聞こえるようにしてもらえるものと過度な期待をされ、少しでも補聴器が聴こえにくいと過剰にクレームを言われる方がおられます。気持ちはわかりますが、たとえ技術的に他施設より優位であってもやはり医療には違いありません。医療は、準委任契約で行われますので結果を保証することはできません。委任契約もありますが弁護士に裁判の代理人他頼んだり、司法書士に法的書類の作成を依頼したりなど法的手続きを依頼する契約です。医療は法的手続きではないので準委任契約になります。医療の素人が自分で治療ができないために医師に医療行為を代わりにやってもらうという契約です。報酬は行為に対して支払われます。医療行為は必ずコンプライアンス順守されるべきですが、先ほども申しましたように結果を保証する義務はありません。ただし結果をおろそかにしていいのではなく達成すべく努力する義務は負います。医学という最も不確定性の高い科学で問題を解決せねばならないし、最初から結果が出ないとわかる症例もありますので結果を保証することは現実的ではありません。ただしいくら結果を保証しなくてもいいといっても限度というものがあり、技術向上をおろそかにして成功率が低いまま放置すると淘汰されてしまいますので過度な心配はご無用だと思います。また当院では、結果を伴わない補聴の販売は辞退させてもらうというポリシーは守っております。(準)委任契約対して請負契約というのがあり結果を保証する契約で、わかりやすく言うと成功報酬です。ただ報酬は先払いが普通で契約通りに結果が伴わないと返金や無償修理などで対応します。医療を請負契約にしてしまうと診療の多くがタダ働きになるので医師を目指す人材はいなくなるでしょう。
補聴器診療も不確定性が高い
長年やってみて思うのですが医学の中でも補聴器診療の不確定性は飛びぬけています。同じような聴力で似たような調整を行っても人によって反応がまるで違います。音のこもり、周囲騒音の聴こえ方、言語の明瞭度が違い評価も全く異なります。よく聞こえるという人もおられ、何を言っているのかわからないという人まで非常に幅広いものです。一方腫瘍医療では、進行ステージでおおよその予後が予想できるのに補聴器診療では、聴力だけでは予後がどうなるか予想できません。熟練してくるとある程度は予測できます。あまり言いたくないですが、聴力が同じならその人のインテリジェンシー、性格、生活習慣、年齢によって成否がかなり左右されます。どう関与するかは企業秘密ということでここでは申しません。また耳穴型補聴器は外耳道の形状で抜けやすかったり、痛みが出たり、窮屈であったりと一回で満足できる形状に仕上がってこないことがしばしばあります。こんなのは普通で歯の詰め物(インレー)も何度も削って高さを調整するのが常ですがそれと同じです。補聴器も型が満足できるまで何度でも作り直したり、削ったりします。でもそれに不満を漏らす方もおられるので医療の不確定性を理解していただきたいものです。この不確定性の高い補聴器診療を少しでも高いパフォーマンスの実現と時間短縮するために当科では実耳測定をルーチンにしております。じゃあこれで完璧かというとそうではありません。登山でいえば8合目までは連れて行ってくれる感覚ですが、頂上へは試行錯誤の探検が続きます。残念ながら医療すべてに完璧は存在しません。試行錯誤も必ず存在します。以上非常に長くなってしまいましたし、話が混とんとした部分もあり申し訳ございません。
最後は自己責任
何度も申しますが、医療である補聴器診療は準委任契約であり、不確定な部分を免責としたものです。しかし結果を出すべく努力義務は伴います。この努力義務を怠っている供給元が問題です。先進国ではありえないほど補聴器販売に対して規制が緩い国ですので、残念ながら自己責任でどこに依頼するかを決めなければなりません。しっかり情報収集して吟味されることをお勧めします。
文責:原田

