耳鳴と補聴器

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補聴器が耳鳴の治療に

耳鳴の治療ガイドラインという学会が推奨する治療の流れが掲載されている医学書があります。これによると難聴を伴う耳鳴の治療には補聴器が最も推奨される方法と記載されています。ガイドラインができる前から補聴器装用すると耳鳴の訴えが減少する傾向があるということは、分かっておりました。私は大学勤務時代に耳鳴外来で左の突発性難聴発症後に耳鳴の訴えが強い70代の男性患者を診ておりました。右耳は先天性と思われる難聴があり結果的に両側に高度難聴を患うことになり耳鳴よりも生活上のクォリティー(QOL)の改善を図るべきであるとの考えで補聴器装用を勧めました。高度難聴ゆえに補聴器の調整には難渋いたしましたが、QOLが向上するにつれて耳鳴の訴えはあまり言わなくなり、10年後には耳鳴は消失しました。この当時はあまり補聴器による治療は標準ではなく、むしろ以下に述べる治療法の方が主流でした。

マスカー療法

まだ治療ガイドラインがなかったころ耳鳴のある耳に耳鳴が聴こえなくなるくらいの大きさで、一定時間ホワイトノイズなどを聴かせるとノイズを止めてもしばらくは耳鳴が抑制されることが分かっておりましたのでかつてはマスカー療法として用いられておりました。効果は一時的なのですが、耳鳴は止まることがあるという安心感からこの治療を受ける方が少数ながらおられたことを覚えております。

TRT(Tinnitus Retraining Therapy)

ジャストロボフ博士が提唱した耳鳴の順応療法ですが分類上音響療法の一つです。しかしマスカー療法とは方法と原理が全く異なっています。まず最初に指示的カウンセリングを行います。耳鳴の鳴る仕組みや大きくなるメカニズムやほとんどが無害であることなどを説明し耳鳴に対する不安をとります。また生活習慣上注意する事項も指示内容に含まれます。その後にサウンドジェネレーターを用いてそのサウンドを毎日数時間聴きます。サウンドの大きさはマスカー療法のように耳鳴を完全に遮蔽してしまう大きさではなく、耳鳴に対して7割くらいの大きさで耳鳴とサウンドが同時に聞こえるようにするのが大きな違いです。サウンドジェネレーターはホワイトノイズ、ピンクノイズなどのノイズ系を使用しますがそれよりリラックス効果が得られたければWidex社のZEN Toneを使用します。ZEN Toneはフラクタル理論により生成された数値に基づいて創られた楽音で繰り返しがなくマンネリにならないのでリラックスが得やすくなっています。Widex社の補聴器に内蔵されている機能で補聴器とサウンドジェネレーターを切り替えまたは同時に鳴らすことができます。耳鳴とサウンドの療法が聴こえる状態でサウンドを聞くことに集中します。

TRTの原理

原理についてい説明します。まず耳鳴に悩む原因はそれに対するネガティブな感情と結びついており、それは悪いものあってはならないものとして判断している点にあります。耳鳴を監視する習慣があり、それは耳鳴に対して過敏になることを意味します。結果的にネガティブな感情が結果的に耳鳴を増幅していることになります。そしてますます悪循環に陥っていきます。これが耳鳴に悩む正体です。TRTはサウンドに集中することにより耳鳴に感情が向かないように訓練し、悪循環を断ち切る方法です。実は耳鳴症患者は耳鳴のある人のごく一部です5%以下と言われており、ほとんどの人は悪循環に陥らずに済んでいます。TRTは普通の人の心の動きに戻すといってもいいのではないでしょうか。耳鳴の原因の第一が加齢性難聴で40歳を過ぎると気付かないうちに始まります。なので40歳を過ぎると5人に1人は耳鳴があるといわれています。日本では300万人は耳鳴を持っているといわれています。全員が耳鼻咽喉科医院へ掛かったらとんでもないことになりますね。はとんどの人は何もせずに放置しており、普段はほとんど気にも留めておりません。耳鳴症患者はある種の精神疾患の患者とも考えられるので、精神療法に属するリラクシング療法であるTRTが効果を発揮するわけです。TRTはこれまで難治性と言われていた耳鳴症に対して従来の薬物療法に比較して有効率が高かったので一世を風靡しましたが、条件付きですが効果の点では補聴器療法に軍配が上がり主流はそちらに移行してきました。

補聴器療法が主流に

現在耳鳴診療ガイドラインにおいて、難聴を伴う耳鳴症に最も推奨される治療に補聴器が選ばれています。難聴を伴う耳鳴が9割で無難聴性耳鳴は1割程度なので耳鳴治療の主流になりました。ただし、難聴を伴うといっても例えば8kHzのみが低下して耳鳴を発症している場合は、難聴に対して補聴器の適応になりませんので補聴器療法は試行されません。しかし、世の中には補聴器適応の耳鳴のある難聴の患者さんはかなりおられますので補聴器療法が適応されるケースが少なくないので主流になりました。また、耳鳴のみならず難聴もQOLを下げる要因であるので一石二鳥の効果も期待できるという点も主流になった要因だと思います。しかし、無難聴性耳鳴には使えないのでTRTなどを検討することになります。

薬物療法が推奨されないわけ

耳鳴は、ほとんどが内耳からの音声信号の減弱により脳が減弱した信号を何とか捉えようとして起こる生活反応であるという説があります。内耳性の難聴が治ればいいのですが、今のところその治療法が確立されておりませんのでどうしようもありません。一つは脳のその反応を薬物で抑制すればいいと考えられるのですが選択的抑制は不可能で結局、脳機能全体が抑制され眠気や意識混濁などの副作用があり、しかも効果は一時的です。脳がそういう反応をするというのは脳が健康な証拠であって脳機能の重篤な低下があればむしろ耳鳴は起きないかもしれませんが、脳機能の低下の方がむしろ問題でしょう。それゆえ薬物療法が推奨されないという結論に達したようです。私もある時点からお茶を濁す程度の効果あるいは一時的な効果しかない薬物療法は一切やめました。実際ほとんどの方が耳鳴が放置しているように放置できない方にも同じようにきるように音響療法やカウンセリングに力を入れるようになりました。カフェインなどの興奮剤は耳鳴を増強することがあるので注意しましょう。私もコーヒーや緑茶を飲み少し興奮気味になると確かに耳鳴が大きくなります。耳鳴を気にしないようにしている私は、平気で摂取しますが気になる方はカフェインレスの飲料にすることをお勧めします。

耳鳴は放置していいのか

薬物療法ができない、音響療法は面倒だとなると実際耳鳴は放置していいのかという問題に突き当たります。難聴は放置してはいけないという結論は出ています。それは、放置することにより認知症のリスクやそこまでいかなくても言語認識の低下を招くことが分かっているからです。結論を言うと耳鳴は放置しても問題はほとんどありません。放置できない場合もありますが耳鳴を起こすあるいは増強している原因が重篤な場合です。それは脳の器質的疾患が隠れている場合と、精神疾患特にうつ病が隠れている場合です。脳の器質的疾患は脳腫瘍や脳血管障害などがあり命にかかわる問題です。頭痛、めまい、嘔吐、記憶障害などの神経症状が伴う場合は、精密検査を受ける必要があります。随伴症状がないこともあるため心配なら検査を受けることをお勧めします。うつ病が隠れている場合は最悪自殺に至ることがるので抗うつ剤などの治療を受ける必要がありますので、気になる場合はメンタルクリニックの診療を受けることをお勧めします。何度カウンセリングをしても改善のない場合は精神疾患を疑うべきと考えております。脳の器質的疾患や精神疾患がない場合は原則放置しても問題ないと思われます。

耳鳴を経験してみて

私の耳鳴が本格的に始まったのは47歳になってからです。学会に集積していた時でした講演内容は聞こえていましたがそのバックグラウンドにキーンという耳鳴が鳴り響いて気分が良くなかったのを覚えています。耳鳴の原因は、ほとんど老化であることを知っていますので「ありゃ、とうとう始まったか。歳をとる以上仕方ないわ。」と思っただけで放置しました。仕事柄、聴力だけ測ったところ案の定8kHzのみ低下しており明らかに老化の兆候でした。意識しなければほとんど自覚することがないし、痛くもかゆくもない、仕事も遊びもできる、好きなものが飲み食いできる。体の運動機能も異常なしです。これのどこが病気と言えるのだろうか白髪や皮膚のしわと同じじゃないかと考えています。それを深刻に考えすぎることこそが病的であるという考えを持っています。

感情と結びつく耳鳴
耳鳴は感情の叫び

私が耳鳴が身体より心の病気と考えるようになったのは、耳鳴の面白い現象を経験するようになってからです。仕事や遊びに熱中しているとき、お笑い番組を見て笑っているときには耳鳴を自覚したことがありません。逆に怒りや悲しみを覚えたときは、狂ったように鳴りだします。それ以降耳鳴患者の決定的な身体的問題がなければ体を見るのをやめその人の背景を探ることに重点を置くことにしました。出るは出るは人生の問題が洪水のようにあふれ出てきました。隣人とのもめごと、親子の確執、夫婦間の確執、職場の上司との確執、性的な悩み、教師の父兄との確執などが背景にありそういう悩みのない人はいないくらいでした。職場の配置換えをしてもらってから全く耳鳴に悩まなくなった患者や旅行中は耳鳴が止まっていたのが家の玄関に入った瞬間に始まったという家にストレスの種(たいていは配偶者)がある患者。こういうのはよくありますが病院の外来が劇場になったような経験もしておりその一例を紹介します。学歴重視の高学歴親父に嫌気がさしてブラジルに渡りレストランを経営して、現地で結婚した男性の話を聞いたときは、まるで小説を読んでいる気分になりました。ブラジルはポルトガル語で言語で苦労し、資産家と役人による賄賂文化が浸透しており新参者がのし上がるのは大変みたいです。また日本人であるその方にはブラジルの塩分過多と脂っこい食事(シュラスコうまいですが)が合わず健康を害したそうです。とうとう嫌気がさして現地妻と子供を残して日本に帰ってきてから耳鳴の悩むことになったようです。家族が気にならないのでしょうか? 話を聞いているだけで耳鳴が鳴ってきそうですね。私が北杜夫や渡辺純一のように文才があったらノンフィクション作家になれたかもしれないほど物語がありました。

耳鳴は人生のアラーム

耳鳴症の背景にはストレスがあります。脳の器質的疾患や精神疾患は疾患ストレスです。これは放置してはいけませんので適切な医療を受けてください。それ以外ものはほとんどが情動ストレスです。先ほど放置してもいいといいましたが、それは生理現象である耳鳴の場合の話です。その症状を悪化させている情動ストレスは原因の問題が小さなものであれば放置するという手もありますが、情動ストレスの原因が深刻なら耳鳴は取るに足らない問題でむしろ人生においては背景の問題の方が重大でしょう。放置することにより交友関係、仕事関係、家族関係などに深刻な問題が生じ後戻りできなくなる可能性もあります。事の重大さに向き合うのが嫌で耳鳴に逃げ込んでいると思われる人もおられるようです。ほとんどの方が耳鳴を放置しており、ほとんど意識することなしに生活されています。この違いはその人の人となりが決定するものと考えています。耳鳴を悩むということはそこに何らかのストレスが背景にあると考えています。あなたは何か対人関係に悩んでいませんか? 人と違うことに違和感を覚えていませんか? 人に言えない指向をお持ちで悩んでいませんか? 人とは違う人生観をお持ちではありませんか? 人にどう思わるかどう見えているか気にしている人生ではありませんか? 非常に貴重面で真面目はありませんか? 正義感が強すぎませんか? 人生はこうあるべきと人に価値観を押し付けていませんか? 以上が私が経験した耳鳴に悩む方の典型的な方たちです。一言でいうといい人、まじめな人、義務感の強すぎる人、理性的すぎる人です。私は、耳鳴は偏った生き方を教えてくれる人生のアラームと考えて一度自分の人生を見つめ直すいい機会ではないでしょうかとお伝えしています。善人だがちょい悪の部分があるのがちょうどいいのかもしれません。

鈍感力を養う

現在私は、補聴器診療を専門に行っており大学病院での特殊外来のような深く掘り下げた人生相談に近いカウンセリングは行っていません。しかしこれをお読みのあなたはもうその必要はありません。補聴器療法のような別の一面を持つ治療法を除いて小手先の治療法にすがらなくてもご自身で解決できると思います。それでも気になってしょうがないという方は、渡辺淳一の「鈍感力」や倉田百三の「絶対的生活」でもお読みになって小さいことにくよくよしない鈍感力を身に着けたり、思考の方向を別の方向に向けてください。全世界が戦争や経済崩壊で明日をも知れぬ命の人々や明日食えるかどうかわからない人々であふれる世の中、耳鳴で悩んでいられるのは結構な身分なんだラッキーなんだと思いませんか。
文責:原田
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