補聴器の価格の中身

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補聴器の価格

補聴器の価格はずいぶん高価なものだと思われている方がほとんどだと思います。確かに高価ですがそれには理由があります。もちろん現在ではデジタル補聴器の半導体チップの開発、ソフトウェアの開発などメーカーの開発経費は莫大なもので、それを回収するにはそれ相応の対価が必要なのは言うまでもありませんがそれだけではありません。補聴器の価格の中には、購入後の補聴器の調整(試聴期間中も含む)の対価が含まれております。補聴器は最初に装用を開始して3~6回程度の再調整が必要です。聞こえが満足できるレベルになってからも聴力の変化に応じて定期的に再調整が必要な場合が生じます。この辺りは個人差が大きく一概に何カ月ごととか一律に決められないので、臨機応変に決めることになります。

調整料が含まれるべきか

アメリカやオーストラリアは調整料等のセット販売と分離販売が選択できるようです。セット販売は、「調整料」「数年間の保証」「定期点検」がすべて含まれ、分離販売は「調整料」「検査料」「修理費」などすべてが切り離されております。もし日本もそうならばどちらを選ばれますか? どちらがいいかは一概には言えません。なぜなら供給側の技量、消費者の状況や価値観に左右されるからです。納得するまでしっかり調整してほしいとなるとセット価格の方がいいし、何回も調整が必要ないと考えるなら別料金の方がいいでしょう。それはうまくいく前提での話で、調整で満足が得られないときパック料金の時、安易に販売店を替えられないのでデメリットになります。別料金だと満足できるまで調整料が別料金の販売店を変更できますし、何度替えても満足できない場合は補聴器の限界だと納得できます。また別料金だと販売店も技術で勝負しやすいし、優良店が淘汰されやすいというメリットもあります。日本ではセット料金しか選択できないので他店で調整料が有償の場合、購入店で支払った調整料は損金になります。

調整に必要なコスト

調整に一体いくらのコストがかかるのでしょう。販売店や医療幾何によって大きな開きがあります。日本の様に調整料がセット価格なら調整にできるだけ多くのコストをかけてほしいと思う方がほとんどでしょう。その大きな開きは「補聴器の最高ランクの調整とは」で述べたように補聴器の調整にはランクがあるからです。ランクの低い方から言うとファーストフィット、ファンクショナルゲインによる調整、実耳測定による調整になります。また販売店や医療機関の補聴器外来を選ぶ際の指標になりますので、この項目は非常に重要な内容で業界の誰も教えてくれなかったことだと思いますので頭に叩き込んでおいてください。またそれを知らなかったばかりにこの日本でこれほど多くの人が補聴器に満足できなかった理由だとも考えられます。

ファーストフィット

PCが聴力からターゲットゲイン(推奨利得)を計算し出力をそれに自動的に合わせる方法で一瞬で終わります。調整と言えば調整なのですが私は調整とは認めたくない方法です。あくまでも出力される利得は推定値であり様々な要因で誤差が出ます。耳栓の形、カスタム補聴器の個別の形状、耳栓と外耳道との整合性、補聴器の個体差などが誤差の原因になります。同じ補聴器なら同じと癖になるはずですが、10台の同型の補聴器の特性データを学会で出された先生がいましたが、予想より誤差を含んでいるものだと思いました。ファーストフィットはあくまでも参考値であり正式な学会では出せない方法です。1人が入れる聴力検査室と聴力検査機器、調整用PCと補聴器とのインターフェイスがあればできるので100~200万円くらいでしょうか。電話ボックスのような部屋で聴力を測り、補聴器を店頭で調整または奥の部屋で調整した補聴器で試聴する場合はこれに該当します。言葉の聞き取りの検査なども行わないことも多いようで、販売員の口頭による聞き取りを確認する程度ではないでしょうか。その反応により若干修正を加えることはされるでしょう。それでもファーストフィット+αでよくならないことが多く結局ファーストフィットに戻すことはよくあります。

ファンクショナルゲインによる調整

ファンクショナルゲインとは音場閾値検査です。普通の聴力検査はヘッドホンによる閾値検査ですが、補聴器を装用するとヘッドホンが使えないので、自由音場でスピーカーから出る音で閾値を検査します。裸耳と補聴器装用耳と両方検査しその差で補聴効果を判定します。ここまで行って初めて学会で症例の報告が可能となります。これを行うには、6平方メートル以上の防音室と音場閾値測定器、音場での語音聴力測定器が必要です。もちろん聴力検査施設は別に用意するか音場検査の防音室に聴力検査機器を設置するかのいずれかです。広いユニット型の防音室を用意するか部屋に防音工事を加えるかする必要があり200~数100万円はするでしょう。検査機器一式でも100~200万円は見ておく必要があり、ファーストフィットで紹介した機器を合わせて合計300~400万円あたりが一番多いのではないでしょうか。もしあなたが広い防音室に通され補聴器を装用したままスピーカーから出る音で閾値を測ったり、言葉の聞き取り検査を行ったとしたらこれに該当します。セット販売でもここまでやってもらえれば納得ではないでしょうか。

実耳測定による調整

補聴器の最高ランクの調整とは」で紹介してる方法で詳しくはそちらをご覧ください。簡単に言うと鼓膜にどれくらいの音圧が到達しているのかを実際の測定により調べる方法です。実測の強みは、あらゆる誤差の原因になる因子を一切考慮せずに調整できることです。耳の構造の個人差、補聴器の個体差、耳栓の差など一切考える必要はありません。唯一の弱点は、測定法が難しく特に外耳道にプローブチューブという直径1ミリメートルのシリコンチューブを鼓膜の近傍に設置する必要があり、ここが一番の難所です。耳鼻科医でなくてもできるのですが、なかなか難しい作業だと思います。設備は6平方メートル以上の検査室に実耳測定や音場検査、聴力検査等すべてできる複合検査機器がありますのでそちらを用意し、ファーストフィットで紹介した機器を合わせて数100万円は下らないと考えます。検査コストが最もかかっており技術的にもこれ以上ないので一番得ではないでしょうか。ただし、検査機器はそろっていてもほこりをかぶっている施設もありますので要注意! もしあなたが補聴器調整のために外耳道に直径1ミリメートルのシリコンチューブと補聴器またはウレタンフォームチップの耳栓を同時に挿入されたら実耳測定による調整と考えてください。もしこれが実施されればこの販売店はかなりレベルの高いところです。

同じ補聴器代を払うなら・・・

さていかがでしょうか。3種類の調整法とそれを施行するための設備コストをご紹介いたしました。日本の場合どこで補聴器を買っても同じ値段ですので、コストのかかった調整をしてもらえば本体価格がお得になる勘定です。どちらで購入されますか? ただし当クリニックの場合は、診療報酬の自己負担分は別途かかります。しかしほぼ全例実耳測定による調整を実施しております。それでも一番お得な選択は何かを考えれば私がとやかく言う問題ではないでしょう。
当院では確かに別途医療費がかかってまいりますが、補聴器外来専門と謡っている限りできるだけのことをしようと、考えうる限りの設備を用意しました。補聴器業界の知人は設備を見て気違いじみていると考えたのでしょう「バカな投資をして、きっと潰れるだろう。」と考えていたようでしたが、何とか運営し続けております。コストのかかった調整法の優位性を実感していただけている方々のおかげで、廃業せずに済んでおります。

本体価格の違いは

日本では補聴器の価格は、本体価格以外に調整や補償費などの付帯費用が含まれていることはご理解いただけたと思います。しかし、本体価格も表示こそありませんが大きな違いがあると認識されていると思います。補聴器1台当たり10万円以下から50万円を超えるものまでありますからそう考えるのは当然のことです。さてその値段の違いは何かというと補聴器の形状の差ではなく、性能の差によって決まります。一口に性能と言っても言葉の歯切れの良さ、周囲ノイズの低減、ハウリング抑制、指向性の変化、音楽の聴こえ方、調整の細かさ(チャンネル数)、風切り音の処理、AIによる音声処理など数え上げたらきりがありません。じゃあいったい何が違うのかというと一般的には、高価なものほど騒音がソフトで静かで、音声も歯切れがよく、騒音環境下でも聞き取りやすい傾向にありますがその効果も個人的に差が見られます。予算の許す限り高価なものほどいいのですが無理する必要はありません。それなりの物で最初はノイズが気になっていても装用しているうちに慣れてくればそのまま使い続けることは可能です。

それにしても高いのは

スマホの中でも高いと言われているiPhone 17は15万円前後しますが、この値段じゃ両側に補聴器を購入するのは困難です。片方にするにしてもスタンダードモデルがやっと買える程度です。電話にタブレット端末が合体した電子のお化けのような存在であるスマホに比べ、音をデジタル処理をするとはいえ増幅するだけの補聴器の方があまりにも割高の印象を受けるのではないでしょうか? 私見ですがスケールメリットが大きな原因であると考えています。日本のスマホの年間出荷台数は何千万台ですが補聴器の年間集荷台数は何十万台のオーダーです。2桁も違っていますのでむしろiPhoneの方が割高な感じがします。補聴器も半導体チップで制御されておりその開発費も相当な額になると考えられます。スマホと比べて2桁も出荷台数が少ないと現状の価格にしないと新技術の開発はできないと考えています。普及率でみてみますとスマホは個人ベースで8割以上(総務通信利用動向省調査)です。難聴を自覚している人が11%でその内15.6%が補聴器所有しており、全人口の1.7%です。スマホは補聴器の50倍も普及していることになります。そう考えると補聴器は決して高くないですね。

OTC補聴器の出現

アメリカではオージオロジストなどの国家資格がないと補聴器販売ができませんでしたが、店頭販売用のOTC補聴器が認可され誰でも売れるようになりました。従来通り資格がないと販売できない処方補聴器とOTC補聴器の2本立てになっております。日本では資格がなくてもいずれの補聴器も販売できる例外的な国ですが、AirPods Pro 3 がOTC補聴器としてApple社より販売されております。価格は処方補聴器の5~10分の1くらいですから確かに安いです。メインの目的はBluetoothイヤホンとして使うことであり難聴のない人でも需要があるので、量産することにより単価を下げることができます。補聴器として使用する場合、聴力チェックから調整まですべて自己責任で行わなければなりません。学会でも取り上げられましたが、処方補聴器から見ると機能は限定的であるという印象を受けました。私の立場からするとお薦めは致しませんが、軽度難聴でこれで役に立つならば安上がりでいいかもしれません。いずれにせよ日本でもOTC補聴器と処方補聴器を明確に区別するために、有資格者のみが処方補聴器を扱えるようにするべきでしょう。混乱を招くだけです。両者の区別がつかないから安いOTC補聴器を選んで、そして満足に聞こえないと「補聴器は役に立たない」という間違った情報が拡散される可能性があります。その点を非常に懸念しております。

おわりに

補聴器の値段の根拠がおわかりいただけたでしょうか。確かに高価なものですがそれには人件費も含まれているので了解していただけたのではないでしょうか。しかし、入手先で高くも安くもなることもおわかりいただけたでしょう。高い買い物にならないように十分お調べになってご検討したうえで正しい選択をしてください。
文責:原田
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