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人工内耳は最も成功した人工臓器
人工内耳は最も成功した人工臓器と言われています。それ以外の人工臓器と比較してみましょう。すぐに思いつくのは、心機能不全や心臓手術時の応急処置としての人工心臓や腎機能不全の時に行う透析における人工腎臓などが挙げられます。いうれも規模が大きく体外で使用しなければならず使用電力も大きいため外部電源に頼らなくてはなりません。そのために使用時は必ず肉体的拘束を受けます。そのためその問題を解決するためには、移植医療に頼らざるを得ずそうなると異種蛋白に対する拒絶反応という新たな問題が生じます。免疫抑制剤でその問題を解決しますがこんどは免疫機能不全という新たな問題が生じます。人工内耳は非常にコンパクトでまた使用電力は微小で小型電池で賄えます。体外のスピーチプロセッサーと体内に埋め込むインプラントは半導体技術の向上により小型になって耳掛け型補聴器のサイズになりました。インプラントとスピーチプロセッサーとのやり取りは皮膚を通した電磁気のみで体内外の物質の流通が必要ないので感染対策をする必要がありません。インプラントは異物であるには違いないのですが無機物で異種蛋白を含まないので拒絶反応が少なく、免疫抑制剤を必要としません。つまり人工内耳はウェアラブルで維持療法も必要なく、耳掛け型補聴器とほぼ同様の気軽さで使用できます。日常生活を犠牲にすることなく使用できることが、最も成功した人工臓器と言われるゆえんです。
補聴器との違い
ここまでのお話で鋭いあなたは補聴器との違いはお分かりですね。人工内耳は機能不全に陥った内耳の機能(音響信号を電気信号に変換する)を代替する人工臓器で、補聴器は弱った内耳機能を音響的補完を行う補装具です。以上。
一言で言ってしまうとはこれで終わりなのですがこれではあまりにも愛想がないのでもう少し補足いたしよう。私が詳しく説明するよりも日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が紹介している「人工内耳について」をご覧になったほうがよくわかるのでそちらをご覧ください。
聴覚を失っても希望が持てる時代に
人工内耳では、音声信号を蝸牛神経を直接電気刺激して言語情報として認識できるように変換し、蝸牛内の電極から蝸牛神経に直接情報を伝えるようになっています。工学的なことは詳しくありませんので詳細は分かりませんが、蝸牛の電極にどのような刺激を与えたら言語情報を伝えられるのかを解明するのに涙ぐましい努力が必要だったと思います。重度難聴以上になりますとほぼ言語によるコミュニケーションが困難ですので、補聴器と読話併用や手話しか方法はなかったわけですから、今までの常識を覆す素晴らしい技術だと思います。また先天性難聴や先天聾の乳幼児も体重が8kgになれば手術が可能ですのでうまくいけば一般の子供たちと同じように育てることができます。人工内耳は聴力を失った人々に希望をもたらしました。まだ補聴器しかなかったころ聴覚を失った人に対して「今の医学ではどうしようもありません。」と宣告するしかなかったのが人工内耳を提案できるおかげで我々の心の負担も軽減してくれました。自分が目の黒いうちに聴覚を再生させることができるとは夢にも思いませんでした。人工内耳を知ったときは、まるで未来からやってきた医療装具に思えたほどでした。
万能ではない
人工内耳の長所を述べてきましたが万能ではありません。人工内耳というだけあって機能不全の内耳の代替なので内耳障害による難聴に対してのみ有効です。後迷路障害と言って内耳より中枢(聴覚伝導路)の障害による難聴に対しては無効です。例えば脳梗塞や脳腫瘍などのような脳の器質的障害で聴覚伝導路が遮断されてしまうと人工内耳は無効です。いずれにせよ後迷路障害は難聴の原因としては少数ですので聴力低下が著しく補聴器が使えなくなったら人工内耳を考慮するのは、ほぼ医学的常識になっています。当クリニックでは、補聴器が限界で人工内耳が適応と判断した場合は、人工内耳埋め込み術が可能な病院を紹介するようにして対処しております。
文責:原田

