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補聴器に手遅れってあるの?
ブログ「力およばず」、「補聴器はいつ始めるか」でも触れましたが、補聴器の装用開始時期に手遅れはあると考えています。また手遅れは2種類あると考えています。本当の意味での医学的な手遅れと社会的な手遅れの2つです。まず手遅れといっても一般の疾患の様に「治る、治らない」という明確な区別があるわけではありません。医学的な手遅れとは、補聴器を装用しても語音明瞭度が日常会話の実用レベルまで得られずさらに聴覚リハビリテーションを行ったにもかかわらず語音明瞭度が実用レベルに改善しない状態と私は考えています。社会的手遅れは、努力により回復可能と考えられますが気力減退などで聴覚リハビリテーションをするモチベーションが保てない状態と考えています。特に高齢者の場合それが分かっていても本人にその気力がなかったり、補聴器装用自体を嫌がっていたり、生活上コミュニケーションをする必要がなかったリしますとこちらもあまり強く勧めることはいたしません。高齢になるとひとり静かに余生を送ることもその人の価値観に見合うなら、それもありかなと考えるからです。
どうして手遅れに
加齢性難聴は一気に悪化するわけではありませんので手遅れになるまでにはいくらでも補聴器装用のチャンスはあったはずです。現役世代であれば社会との接点が多くコミュニケーションは必須の行為ですので、生活上補聴器を装用しないという選択肢はほとんど選ばれることはありません。だから手遅れになる前に手を打つことができ、脳の可塑性もまだ若いから十分あるので時間的余裕もありあわてる必要もありません。難聴は、軽度、中等度、高度、重度と重症度別に分かれております。軽度の場合はほとんど気づかずに生活できることが多く検査をしないと本人も難聴を自覚することがありません。唯一話相手は、ちょっと耳が遠いのではと軽く思う程度です。注意さえ話し手に向けてもらえば話は通じるので他人もあまり気にしません。中等度になると聞き返しが増え、人によっては話が聞き取れないといったことが起こるのですが、本人は自分が耳が遠いということを認めたがらない傾向にあります。難聴に対してかなり悪いイメージが定着しているようです。
どういう人が手遅れになりやすいか
若年者は成長や教育にコミュニケーションは必須ですので難聴が放置されることはめったにありません。現在では新生児のときにABRなどの聴覚スクリーニングを行い異常があれば早期から補聴器や人工内耳の装用が検討されます。学童期や学生時代に中途失聴になることは稀ですがそれでもないわけではありません。学校検診で見つかればそれなりの対策が施されます。社会人も定期健診が定着しつつあり気づくことが多いですが、軽度難聴の場合は深刻なコミュニケーション障害がなければ普段聴覚は刺激を受け続けることになるので補聴器の手遅れは考える必要はないでしょう。問題は中等度以上の難聴です。ここまでになると何が困るのかというと対人関係です。難聴者は何度も聞き返して話の腰を折るようなことを相手に気を使ってしたくないので途中で適当に生返事をするようになります。すると話の内容が分からないので返答が食い違ったりして、気まずい雰囲気になり会話を避けるようになります。こうしてだんだん人を避けるようになり、家にこもりがちになります。こうなるのはどういう人でしょうか? こういう行動をしても生活に特に困らない現役を退いた高齢の方ですよね。現役なら即生活ができなくなるので、早期に補聴器を検討されるので手遅れになることは極めてまれです。
結局困っていない
高齢者の場合は、特に日常困らないのでそのまま放置されていることが多いですが、補聴器を検討するきっかけになるのは、家族が心配して勧めることが多いです。本人のことをご心配なさって連れてこられる場合もありますが、話が通じないと家族が不便なので連れてこられる場合もあります。最近は認知症リスクを気にされて、連れてこられることも多く見られます。そこでご本人が素直に補聴器を装用するかというと必ずしもそうではありません。会話が少ないことが当たり前になっている人にとって聞こえにくいことくらいはそんなに困っていないからです。中等度以上にもかかわらず生活上それほど困っておらず補聴器を考えていない高齢者で特に後期高齢者になると手遅れのリスクが高くなります。もしこの方が日ごろから老人会とか何かのコミュニティに参加していたり、講演会、観劇など聴覚を使う趣味があったりすると家族関係なしで単独で補聴器の装用を考えることでしょう。手遅れになるかならないかは、その人の生き方が決めるように思います。補聴器装用が手遅れになろうが認知症リスクが高くなろうがかまわない、自分の生き方は自分で決めると積極的に補聴器を装用しない人生を選択する方もおられます。
生き方そのものが関係
人はそれぞれ独自の価値観をお持ちです。社交的な方や非社交的な方、孤独がそれほど苦にならない方やさみしがりや、人との交流が煩わしい方や好きな方、趣味や旅行によく出かける方やほとんど出かけない方、外出するのが好きな方や億劫な方などです。手遅れになるリスクが高い方は、社交的で活動的な方ではなく家にこもりがちで人との交流があまりない方です。これはThe Lancet: Risk factor for dementia(医学雑誌ランセットに掲載された”認知症の危険因子”)から引用するとHearing loss: 難聴はもとよりSocial isolation: 社会的孤立、Physical inactivity: 肉体的活動不足が含まれています。認知症リスクと補聴器の手遅れの要因が見事に共通しています。要するに補聴器をせずにずっと放置している方は、そのまま認知症リスクにさらされていることになります。補聴器が必要がない人生を歩んでいる方は、補聴器が必要な生き方に替えることが認知症リスクを低下させることにつながるということです。補聴器と認知症の関係を詳しく知りたい方は、「補聴器と認知症」をご参照ください。
補聴器の予防効果
補聴器を装用してできるだけコミュニケーションをとったとしてどれだけの効果があるのかと言えば、リスクファクターを半減するだけの予防効果があると言われています。とはいえ補聴器を試聴して補聴効果が認められ無事購入に至りました、めでたしめでたし、と安心はしていられないと思います。その後その方が毎日補聴器を装用して日常的にコミュニティに参加されるでしょうか、友人と会話されるでしょうか。結局その方のライフスタイルが閉鎖的なら補聴器の予防効果はあまり期待できません。あまり会話の機会のない方は、本の朗読や復唱などの聴覚リハビリテーションが必要で家族のフォローが必要になってきます。でも補聴器を使う以上会話や聴覚リハビリテーションをしなければ認知症予防効果がないとご説明するとちゃんと聴覚を刺激し続ける生活をされることもあります。このように補聴器を装用するだけではなくコミュニケーションの多い生活をしなければ認知症リスクを軽減するのではないことを強調しておきます。
手遅れにならないために
まず聞こえに問題があればまず診断を受けましょう。難聴がある場合でも軽度の場合は補聴器を医者から勧められることはあまりありませんが、平均聴力が30dBを超えてなおかつ日常生活上支障があれば補聴器を検討すべきと考えています。40dBを超えればなるべく早く補聴器を装用すべきです。中年期の中等度難聴の放置が最も認知症リスクを高めるからです。年齢が高くなるにつれ手遅れになりやすいので高齢者は特に注意すべきです。またあまりにも会話が成立しなくなった場合は手遅れの可能性があるので急いで手を打つべきです。その場合は信頼のおける補聴器外来の受診をお薦めします。くれぐれも手遅れにならないように普段から注意しましょう。
※平均聴力:4分法では、(500Hzの聴力+1kHz の聴力×2+2kHzの聴力)÷4で求められます。/聴力(単位:dB)
文責:原田

