症例1

72歳女性で両側RICタイプの補聴器を2年前に購入したが、聞き取りが不十分で何度か調整を依頼したものの改善しないために当院に来院した。聴力は左図に示すように水平型の中等度から高度の感音難聴である。
- 中等度から高度の感音難聴
- 最高語音明瞭度 右80% 左90%
- 補聴時の明瞭度は推定 60%以下

右耳の調整前後の結果を示す。左のグレーの背景は、調整前のデータ。右のグリーンの背景は、調整後のデータ。
図1は補聴器の調整調整用ソフトの画面:破線がターゲットで赤の実線が利得である。上から大入力(85dB)、中入力(65dB)、小入力(50dB)である。低音域が出力不足で、高音域は適当になっている。図2の上図は実線が実測値、破線がターゲットで上から大入力、中入力、小入力となっている。実線と破線が一致しておればターゲット通りに出力されていることになる。わかりやすくするために実測値とターゲットとの差を下図に示してある。グリーンの背景は、実測値とターゲットができるだけ一致するように調整した結果である。実測値とターゲットがかなり一致させることに成功しているが、補聴器の調整画面では、中音域を中心としてかなりオーバーゲインになっている。

左耳は、図5の調整画面では各入力ともにゲインが不足しているように見えており、図6のRECDによる実耳測定の結果ではすべての入力大してゲインが不足している。図8のように実測値での調整で実測値とターゲットができるだけ一致するように調整すると図7のように調整用ソフトの画面で中音域を中心としてオーバーゲインになっている。いずれにせよ調整用ソフトはあくまでも推定値であり、様々な原因で誤差を含んでおりこのように大きく実測値とターゲットの乖離があるのもまれではない。補聴器自身の経年変化も大きいのではないかと推察している。

症例1のファンクショナルゲインを左図に示す。
装用利得が閾値の半分くらいになっておりややなで肩の理想的な形になっている。本人も聞き取りの改善を実感しており明瞭度も以下に示すように著明に改善している。また実耳測定による効率化により90分以内にすべての検査が完了している。この症例の要旨は第69回聴覚医学会総会・学術講演で発表した。
- 音場による60dBの明瞭度は、右80% 左75%
- 調整後の改善を実感
- 来院して帰るまで90分